時代劇で「鯉口を切る」と言う言葉がある。相手が切りかかってくるや否や、すぐ刀を抜けるように、さや口と鍔が合うところ(鯉口)をゆるめ、カチィと微かな音を立てることである。そんな場面で、相手の技の凄さを瞬時に察知し、心の中で呟く「お主……」みたいな、せりふを聞くと、真剣勝負に対峙した気になり、一気にのめり込んでしまう。自分が何者でもないのに、有為な人を見つけた時も同じだ。「お主……」その人の立ち居振る舞いに注目し、夢中になり、モチベーションを高めることになる。
かって俳優の佐藤 健を大河ドラマ、「龍馬伝」で見た時、驚愕した。何者ぞ!確か、人斬り(岡田)以蔵の役であったと思うが、身を硬くして見ていた。ドラマの進行上、ほんの脇役にしか過ぎないのに迫真の演技が際立っていた。演出上、意図された重要な役割だったのかはわからないが…。明治維新を招来した幕末の志士たちのなかにあって、ただひたすら邪魔立てする幕府側取り締まり方を斬り、逃げ回る役である。自分の役所をわきまえ、アグレッシブな演技をすると同時に、崇高な目的意識もなく疎外感を垣間見せる淋しき男の顔を見せてくれた。以蔵は明治維新後も生き延びたそうだが、そんな男の生き様と軌跡を辿るその後のドラマも見てみたかった。もう一人、気になる俳優がいる。先入観もなく、朝ドラの「まれ」を漫然と見ていたが、存在感のある役どころで柳楽優弥が出演していた。酸いも甘いも知っていそうな、懐の深い演技。それは後の大河ドラマ「女城主 直虎」の盗賊役でも発揮された。何をやっても生きて行ける安心感、見透しの良さ、瞬時の決断力、優しさもある役をこなしていた。こんなお頭なら、ついて行ってもいいな!夢を見させてくれる!と思わせる熱演だ。その役の延長で、脇役でない歴史上の人物?として、ドラマの主役を演じて貰いたいぐらいだ。もともと歴史や歴史上の人物は、史実とフィクションみたいなものが綾を為して作られており、勝者や権力者の為の歴史でもあったり、史家、作家等が掘り起こし、スポットライトをあて、浮上させた人物であることもある。
いずれにしても、世の中、捨てたものでもない。HEROや尊敬できたり、刺激を受けたり、気になる、人となりを意外と見つけられるのである。齢を重ねても「人生又楽しからずや」である。
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